2015年3月11日水曜日

三月
















三月
正午(ひる)になっても
五分だけ休みませうと云っても
たゞみんな眉をひそめ
薄い麻着た膝を抱いて
設計表をのぞくばかり
稲熱病が胸にいっぱいなのだ
一本町のこの町はづれ
そこらは雪も大ていとけて
うるんだ雲が東に飛び
並木の松は
去年の古い茶いろの針を
もう落すだけ落してしまって
うす陽のなかにつめたくそよぎ
はては緑や黒にけむれば
さっき熊の子を車にのせ
おかしな歌をうたって行った
紀伊かどこかの薬屋たちが
白もゝひきをちらちらさせて
だんだん南へ小さくなる
みんなはいつか
ひそひそ何かはなしてゐる
つゝましく遠慮ぶかく
骨粉のことを云ってゐるのだ
一里塚一里塚
塚の下からこどもがひとりおりてくる
つゞいてひとりまたかけおりる
町はひっそり
火の見櫓が白いペンキで、
泣きだしさうなそらに立ち
風がにはかに吹いてきて
店のガラスをがたがた鳴らす
                   宮澤賢治 ・ 詩
                   「石鳥谷町地図形」より



*きたかみの故郷の里山の雑木林が育む滋養に富んだ水が
 やがて和賀川や北上川に入りて清々と流れゆき、三陸の海の
 命に届きますように祈りながら願いながら...
                           森のともだち


 














三月 まもなく 必ず芽吹く里山の森 雨よ降れ、土を通して海に還れ


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